ぶらりL様旅日記 道頓堀の大魔王



プロローグ

 「君達が、いけないんだよ・・・・・・」
 少年はまるで歌うような声で告げる。
 告げられたのは、二十代後半の男。
 一見、冴えないサラリーマンを思わせるような風体だが、
 彼の顔つきが、眼が、何よりも全身から醸し出す雰囲気が、
 何よりも雄弁に、其の男が只者ではない事を告げる。
 おそらく、今まで幾度も修羅場を掻い潜ってきたのであろう。
 その男が、たった一人の少年に怯えているのだ。
 「君は、君たちが盗み出した物が、何処にあるか知ってるかい?」
 男は後ずさる。一歩、二歩・・・・・・
 大声を出して助けを求める事が出来たなら、どんなに良いだろう。
 だが、雇い主への義理立てとか言う以前に、声を出す事が出来ないのだ。
 「たしかに君は、君の主程愚鈍では無いみたいだ。」
 少年は、思案顔でつぶやく。
 当たり前だ。人知を超える存在を、現に目の前にしているのだ。
 「でも――だったら、最初から、仕事を選べば良かったんだよ・・・・・・」
 こんな事になるなどと知っていたら、一から受けたりしなかった!
 そう思う暇が、はたして男にあったかどうか―――。
 少年の言葉と同時に、闇が奔り、男の胸を貫く。
 次の瞬間、男は絶命し、少年は消えていた。
 まるで、全てが最初から何もなかったかの様に。
 全てを覆い隠す闇の中、其処に倒れた男の死体だけが
 僅かながら、真実を語っていた・・・・・・



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